朝御饌祭 ー神様との縁結びー

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諏訪大社下社秋宮、朝6時少し前。白々と陽が昇り始め境内にも少しずつ朝の光が届きます。鳥居で一礼し、下社七不思議の一つ「寝入りの杉」の脇を通る頃には神楽殿から「ドーンドーンドーン、ドドドン、ドドドン・・・・」太鼓が打ち鳴らされ始めます。この太鼓の音が、毎朝の神事、朝御饌祭(あさみけさい)の合図です。祭祀が行われる弊拝殿の前には、毎日欠かさずこの朝の神事に参加される地元の方の姿もちらほら。境内は、神楽殿からの太鼓の音と鳥の囀り(さえずり)しか聞こえてきません。

寝入りの杉越しに見える神楽殿

太鼓の音が止むと、装束を身にまとった神職の方が、両手で三方※1を持ち、静々と神楽殿から降りてきます。「ざっ、ざっ」と神楽殿を囲む玉砂利を踏み締め弊拝殿へと歩みを進めます。階(きざはし)を一段一段丁寧に上がり弊拝殿に入ると、三方を脇の案に置き、正面右手で神事をはじめるにあたっての祓詞※2を奏上した後、大麻※3で神饌※4、世の中を祓います。清々しい朝の空気の中、参拝する私たちにも神様からの祝福が降り注ぎ、今日1日が健やかで恙無く(つつがなく)始まると思える瞬間です。

三方を捧げ持ち、膝進※5しながら正面に向かい御神前に供えます。これを献饌※6と言います。二礼二拍手のあと今度は、朝御饌祝詞(あさみけのりと)を奏上します(※昨年来の新型コロナウイルスの感染拡大に伴ってからは、この祝詞の後に、新型コロナウイルスへの祝詞が加わりました)。ちなみにこの三方に載っている供物は、諏訪大社の場合、米(生米)・酒・塩・水だそうです。人が生きる上で必要であり大切なもの、ということからでしょうか。

さて、この神事を終えた後、神職の方は引き続き、境内にある摂社・末社、そして上社方面、下社春宮方面にお参りをいたします。幣拝殿を正面に見て左右に二度ずつ拝礼を行います。

山王閣跡から望む諏訪湖

この頃になると朝もすっかり明けて拝殿の背後にも陽が差し神々しい景色が広がります。
お客様の求めに応じて、朝この神事をご案内するのですが、諏訪大社では二社四宮(上社『前宮・本宮』下社『春宮・秋宮』)お社がありますが、この四宮全てで毎朝この神事が執り行われます。
 いつもご案内する度、雨が降ろうと大雪であろうと、また晴れていようと曇りであろうと一年三百六十五日を通じて、神職の方々が神前で、日々の平穏と、我々の健やかな暮らしを祈り続けてくださるありがたさを思います。そうした祈りによって、この諏訪の地はかつても、そしてこれからも神様に守られているのだと感じずにはおれません。
神座(おわ)すところ諏訪。この地を訪れるご縁がありましたら、早朝ではありますが、是非ともこの朝御饌祭にご参加されて、神様とのご縁を結ばれることをお勧めいたします。
 この地でしか体験し得ない、この上なく尊い時間が過ごせることをお約束いたします。
 ※ちなみにこの日供祭(にっくさい)は朝と夕に行われます。夕方に行われるものは夕御饌祭です。

※1 三方(さんぽう)…神仏または貴人に供物を奉り、または儀式で物をのせる台。
※2 祓詞(はらえことば)祓に、中臣なかとみまたは神職の読む詞
※3 大麻(おおぬき)…大きな串につけたぬさ。祓はらえに用いる。大麻たいま。
※4 神饌(しんせん)…神に供える飲食物。稲・米・酒・鳥獣・魚介・野菜・塩・水など。供物くもつ。みけ。
※5 膝進(しっしん)…(貴人の前などで)ひざまずいて膝で進退すること。
※6 献饌(けんせん)…神前に物を供えること

(出典:広辞苑)

寄稿者:武居智子
温泉旅館・ぎん月代表。大女将が健在なので、決して若くはないが肩書きは若女将。歴史好き、本好き、着物好き、当然のことながら温泉好き。今年の目標は個人蔵の書籍で館内に図書館を作ること。

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